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いつか王子駅で [本]

堀江敏幸 著
新潮文庫

堀江氏は好きな作家の1人で、エッセイなどは時々読んでいるのですが、今回初の長編小説ということで、とても楽しみに読みました。

主人公は 時々大学で教えたり、翻訳などをしている「私」で、??線沿いにある古くてガッチリしたアパートに住んでいます。
その主人公がいろいろ考えたり、行動したりすることが描かれるのですが、持ち前の流れるような文章とちょくちょく脱線する感じは、エッセイの印象そのままです。
一つのことを考えていて、「そういえば・・・」などといいつつ また他の考えに「脱線」してしまうあたりなど、きっと堀江氏の思考そのものなんだろうなと思ったりします。

この小説にはたくさんの本や文章が出てきます。
わたしが読んだことがあるような本はあまりなかったんですが、本の内容についての記述が詳細で分かりやすくて本当に感動しました。
文筆家ってこういう風に本の感想を書くのか!という感激と同時に、そのほんの少しでも、自分の書いている・・・文章とは言えないシロモノにも取り入れることが出来たらなぁ〜・・・などと、多少おこがましいことを考えたりもしたのでした。

時々ポン!と出てくる言葉の面白さにも目からウロコが落ちるようです。
例えば「大木を切ったり、うまく走ったりするのに大事なのはヒザではなく、足首だ」という話から、「思考の足首」という言葉が出てきます。
取りとめのない考えの中にもポイントとなることがあるはず・・・といったような感じだと思うのですが、こんな組み合わせで使われることに感激しきりです。

登場人物も皆、取り立てて個性的という訳ではないのですが、皆いい雰囲気を出していて微笑ましい気持ちになります。
その中でひときわ鮮やかなのが、主人公が住むアパートの大家さんの娘で中学生の咲ちゃん。
彼女の爽やかさと明るさがなければ、この小説から受けるイメージは大きく違うだろうと思います。
陸上部に所属する彼女のレースがこの小説のクライマックスになっていますが、文字通りクライマックス〜!というところでパシッと終わってしまう潔さに鳥肌が立ちました。

地の文が一人称だし、なんとなくエッセイに近い雰囲気をかもし出していましたが、最後まで読んだ直後の高揚感で、やはりこれは小説なのだと実感した本でした。


いつか王子駅で

いつか王子駅で

  • 作者: 堀江 敏幸
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/08
  • メディア: 文庫


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