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ワイルド・ソウル [本]

垣根涼介 著
幻冬社文庫

「昔は難しい本もいろいろ読んだけど,最近はエンタテイメント性の高い本の方が面白い」と熱く語りながら,父親が勧めてくれました。

最初の舞台はブラジル、アマゾンから・・・。
主人公の1人、衛藤は、戦後の移民政策によってブラジルにやって来ました。
「ブラジルで農業をやれば必ず財を成すことができる」との説明を受けたのに、連れて来られたのは家も、開墾された土地もないアマゾンの奥地でした・・・。
一緒に来た家族達も、自分の妻や弟も病気で続々となくなって行き、ある時衛藤はこの土地を出るのですが、それからも大変な苦労の連続。
残して来た家族達を迎えに行った時には、もう残っていた家族は誰一人残っていませんでした。
が、そこには残っていた家族、衛藤にとっては恩人でもあった野口の息子、かつ主人公の2人目、ケイがいました。

3人目の主人公松尾、彼の両親も衛藤たちと一緒にアマゾンにやって来た家族の一つでした。
彼らはコロンビアへ行こうとする国境近くで、強盗に襲われ両親を亡くします。一人で海を越え、たどり着いた場所で麻薬栽培中のマフィアに拾われ、今は「日本支社」担当という裏の顔をもつ宝石店店長です。
アマゾンでの苦難を共有する3人は、衛藤がアマゾン脱出後に出会った山本を加え、日本外務省および政府に復讐をする計画を実行します。
その内容は後に明らかになるのですが、計画実行前にケイと出会う女性、テレビ局の報道部ディレクターの貴子が4人目の主人公です。

「地の文」と言える部分は3人称で書かれていますが、それぞれのパートごとに「主役」というか、メインキャラクターが入れ替わりながら話は進んで行きます。
アマゾン生活の前半部は当然、衛藤の話が主なんですが、ここはほんとに重くて、救いがなくて、ダークになります。
移民政策自体は本当にあったことですし、彼らの生活は実際、ここで描かれている感じだったのだろうと思うと、衝撃です。

彼らが日本に集まり、周到に準備をし始める部分からは、そういったダークな感じは薄れ、「今」その場にいるキャラクター達が生き生きと動き出して行きます。
準備の内容もその他のこともそうなんですが、ほとんど全ての描写が具体的です。
松尾の乗る車FDのチューニングに始まり、彼らが用意する銃の種類、そして山本が着々と準備する「巻き物」の仕掛けなど・・・。
そして、いざ実行!というその場面の描写は、映像が浮かんで来るかのような(しかも、スローモーションで)感じで、非常に好きです。

どんな本でもそうだと思いますが、登場人物が魅力的だと、その話に引き込まれる具合がグッと高くなりますよね。
これもその一つだと思います。それぞれの「歴史的」な背景も見えた上で読むから、更にそういった感じがします。
まぁ完全に全てが上手く行き過ぎ、「良かったね」的な話になってしまったかな〜という部分もなきにしもあらずでしたが、ノンストップで読めました。
また、こういった作品をキーに移民政策について少しばかりでも知ることが出来た。そういうところも1粒で2度美味しいって感じですかね。

好きなシーンが2つあります。
1つめは、準備のために松尾とケイが樹海に入り、そこで以前2人で同じように道に迷ったときの話になるところ。
「ったくノブ、お前あのときはメソメソしやがって」
「そういうお前だってわんわん泣いてただろうが」
・・・というくだり。
もう1つは、いざ実行する直前!というところですね。
「お前の両親はコロンビアの国境で死んだんだったな」
「ああ、死に顔さえも見れなかった」
・・・という部分から、実行時刻直前までのところです。
なぜか?というのはあんまり上手く言えないのですが、物語中では何を考えているのか分からないキャラであるケイが、本当の気持ちとかをぽつりと漏らすところがいいのかな?なんて思ってます。

ワイルド・ソウル〈上〉

ワイルド・ソウル〈上〉

  • 作者: 垣根 涼介
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 文庫
ワイルド・ソウル〈下〉

ワイルド・ソウル〈下〉

  • 作者: 垣根 涼介
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 文庫


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